偕成社 虫の飼い方・観察のしかた 全6巻(共著) 1998-1999
私のデビュー作となる、偕成社の「虫の飼い方・観察のしかた」シリーズ全6巻です。
当時、豊島園昆虫館で働きながら、昆虫飼育に関する本で良書が少ないと感じていました。そんな時、海野和男さんと出会い、「それなら一緒に作ろう!」ということになって、海野さんが偕成社様に話を持ち掛けてくれました。当時の編集長の情野さんには大変お世話になりました。そして、編集担当として抜擢されたのが入社したばかりの刑部さんでした。私も刑部さんもはじめての本の製作となる中、若さゆえの勢いで作り切った思い出深い作品です。コンセプトとして、リアルに写真を多用し、懇切丁寧な解説を入れるということで、紙面のデザインとしては見栄えよりも情報を重視した内容です。今となっては写真も古く感じますが、現代でも通用する内容だと思います。特に、鳴く虫やバッタの「近所の虫の飼い方2」と水生昆虫の「水辺の虫の飼い方」は私のこだわりどころで、豊島園時代の昆虫飼育スキルをあまりなく詰め込んでいます。
偕成社 クワガタムシ観察辞典 2002 (共著)
小田英智さんが手がけた「自然の観察辞典」シリーズは、新進気鋭のカメラマンが参加しての充実したシリーズでした。新開孝さんの「ヤママユガ観察辞典」も名著となっています。久保秀一さんがすでに「カブトムシ観察辞典」を手掛けていた中、編集長だった情野さんにクワガタムシの巻を担当させてほしいと嘆願したことを思い出します。私としては、この手のワンテーマの一冊という、生活史のすべてを撮り下ろすという仕事の経験はなく、まさしく挑戦でした。一通りの写真を撮り終え、原稿も添えて提出し、やっと出版にこぎつけたことを思い出します。カメラマンとして「一冊を作り上げたという実績が自身につながっていくものだよ」と小田英智さん、久保秀一さんに褒めていただいたことを思い出します。当時はクワガタブームの真っただ中で、マニアックな書籍が多い中で、身近なノコギリクワガタの生活史を純粋に描いています。2009年に版型を変えたかたちで再リリースされています。
フレーベル館 しぜん 2008~2024
「キンダーブックしぜん」は、幼稚園に向けた定期購読が主流の月刊誌ですが、ハードカバーで480円(2023現在)という破格の値段ながら、充実した内容のすばらしい絵本です。フレーベル館様からはじめて仕事の依頼があったのは2007年で、いただいたテーマは「カイコ」でした。私に話が来たいきさつはわかりませんが、確かに養蚕の歴史が深い群馬県で、しかもぐんま昆虫の森には養蚕が盛んだった時代の古民家もあるわけで、写真を撮る人間として、こんな好条件は私しかいないかもしれません。そんなきっかけで始まったフレーベル館様とのお仕事も、気が付けば2024年4月号「ダンゴムシ」で8冊目となりました。いずれも、撮影期間はワンシーズンですから、結構なプレッシャーの中、なんとか仕上げてきたという感じです。「カイコ」と「ホタル」の巻は、私の恩師である矢島先生が監修を担当してくださいました。
小学館 図鑑NEOシリーズ 2002~2018
図鑑戦国時代ともいわれる現代、大手の各社がこぞって図鑑を出版している時代ですが、老舗といえばやはり小学館様と学研様だと思います。そして、現在の図鑑ブームに火をつけたのは紛れもなく小学館様のNEOシリーズだと思います。子供のころに皆が図鑑を見て育ち、学校では学べない知識をどれだけ吸収したことでしょうか。日本の文化として誇るべきことだと思います。そして、昆虫にかかわる人間として、図鑑に参加できるということはこの上なく名誉あることで、写真家としてもステータスだと思います。そもそも、小学館NEOシリーズに参加できたのは、様々な背景がありました。当時はいわゆる「昆虫写真家」という業種の有名な諸先輩方が多数おられましたから、本来ならそこに仕事が流れてもおかしくなかったと思います。しかし、当時のA編集長は「若手を採用しましょう」という英断を下したわけです。ただ、そこで私に話があったわけではなく、同世代の親しかった昆虫写真家 森上信夫さんに声がかかり、「一人ではやりきれないので・・・」とお話をいただいたのがきっかけでした。森上さんには本当に頭が上がりません。結果的に、未発表の生態写真をたくさん詰め込むことができ、売り上げもよく、A編集長の思惑は見事に当たったと思います。そこから、派生的に「飼育と観察」の巻のお話をいただくことになりました。そして、そこで出会った編集者の廣野さんとは、その後、長い付き合いになります。「イモムシ・ケムシ」は廣野さんのおかげで実現できた図鑑でした。安田 守さんの「イモムシハンドブック」が出版されブレイクしたのが2010年でした。私もイモムシの形態の面白さには以前から着目しており、「やられたー」と思いました。ただ、蛾類の知識はそれほどありませんでしたから、あれだけの種数をそろえるのは無理とも思いました。そんな折、2014年に企画展で「イモムシ・ケムシ展」を担当することになり、協力者として古い友人の横田さんに声を掛けました。横田さんは純粋な蛾類生態研究者であり、久しぶりにお会いしてその積み上げた知識と経験に驚かされました。ぐんま昆虫の森の企画展「イモムシ・ケムシ展」を準備する中で、何度か幼虫採集やライトトラップをご一緒させていただきすっかりと意気投合し、横田さんの力を借りればイモムシ・ケムシのかつてない大きな図鑑ができそうだと考えるようになりました。そんな構想を廣野さんに何度となく嘆願し、やっと企画書として提出していただける段階となりました。廣野さんの実績は十分なので通らない企画はないと信じつつ、最大手出版社でイモムシの図鑑を出すということは簡単ではなかったことと思います。結果的に無事に企画会議での承認を得たとのことでしたが、会議が終わったあと、決裁権のある上司から「僕はイモムシ嫌いなんだよね」と言われたとか・・・本当に奇跡の図鑑だと思います。2年の準備期間中、廣野さん、横田さんと私で西へ東へ珍道中の取材旅は本当に楽しかったことを思い出します。
学研 はじめてのむし しいくとかんさつ 2015 増補改訂版 2019
古い付き合いのフリーの編集者 阿部さんを通して、学研様から飼育に関する本の企画をいただきました。当初は、ややマニアックな大人向きの内容での提案でしたが、いろいろとディスカッションを進めるうちに、ロングセラーとなっている、ひかりのくに社様の「むしのくらしとかいかた」に対抗できる本を作りたいと提案しました。私なりに、かなり幅広く昆虫全般の一生を撮影していたので、妥当な方向性で企画がスタートしました。学研様にはポップなイラストと装丁で、子育て世代の親御さんには受け入れやすい仕上がりに作っていただいたと思います。当初はカワゲラ、トビケラ、クモなどはカットされましたが、阿部さんの熱望で、マイナーの虫たちも追加しての増補改訂版は、私なりにもかなり充実した内容だと思います。校了がせまった6月の最後の打ち合わせは、夜中の3時まで続き、息抜きにホタルを見たり、「ノコギリクワガタのメスの白バックがないな」「じゃあ採って撮影しましょう」みたいな、楽しいノリで製作された思い出の一冊です。
小学館の図鑑NEOの科学絵本 2009~2023
このシリーズは、小学館様の廣野篤さんと、デザイナーの鈴木康彦さんにかかわっていただくことで、「長く売れるよい絵本」をコンセプトに少しずつですが、作り続けさせていただいています。本来、期限付きの仕事が多い世界ですが、まとまったところで企画を出させていただけることで、取材に時間をかけて納得のゆくまで取り組むことができています。私自身が子供時代からずっとあこがれていた虫たちのくらしを、コツコツと撮り続けていくというスタイルは、人生をかけて続けていけるシリーズとして本当にありがたく思います。現在進行中のテーマもいくつかあり、今後は一年に一冊を目標に取り組んでいます。
カブトムシがいきる森 2009
ぐんま昆虫の森が開園し、広大な雑木林を舞台にまず撮影に着手したのがカブトムシでした。昆虫の王様ともいわれるカブトムシのくらしと、人とのかかわりも含めて表現できたらという思いで製作しました。樹液に群がる無数のカブトムシはくっつけたんじゃないかと言われることもありますが、これこそが、ぐんま昆虫の森の夏の風景なのです。一通りの写真がそろい、原稿を添えて小学館様に企画を持ち込んだところ、廣野さんに気に入っていただき出版にいたりました。この本が一冊目となって、「小学館の図鑑NEOの科学絵本」シリーズがスタートします。
セミたちの夏 2012
セミの一生がまとまりつつある中、ストーリーの舞台として都市公園を選び、何度となく取材に出向きました。実際に群馬県の里山よりも、都市部の公園のほうがセミの密度は圧倒的に高く、その数の多さに驚かされました。身近な昆虫「セミ」の一生をまとめた類書は意外にもが少ない中、このシリーズでは、もっとも重版を重ねている一冊です。
さすらいのハンター カマキリの生きかた 2013
肉食昆虫カマキリのくらしのありのままを、包み隠さず表現しています。子供を対象とした絵本として、残酷だとか、いろいろとご意見があるところだとは思いますが、自然界で日常的に起きている事実を伝えることの大事さを強調した作品です。
オオムラサキと里山の一年 2022
このシリーズとしては、9年ぶりのリリースとなりました。オオムラサキの一生は以前から撮影済みで、2007年の古い写真もあります。しかし、絵本とした場合、どうしても見開きだったり、ストーリー化した写真の展開が必要になりますから、不足と思われるカットをコツコツと撮り足しようやく出版にこぎつけました。
夏の小川に輝く宝石、オニヤンマ 2023
このシリーズとして、やっと5作目となりました。後書きにも書かせていただきましたが、出版にいたるまで構想から10年の歳月が流れました。産卵や羽化は問題なく撮れるシーンですが、生活史全般となるとオニヤンマならでは難関がいくつかありました。卵探しからはじまり孵化の撮影ができたとき、「よし、オニヤンマをまとめるぞ!」とスイッチが入りました。難関のヤゴの捕食シーンはまさに文明の利器で、カメラの発展なくして撮れなかったシーンです。