クスノキを食べて育つシロオビアゲハ

先日のむしむしトーク「イモムシ」の回での質問で、「キアゲハがミカンを食べて育っているが・・・」と問われました。キアゲハを含むPapilio属は、日本ではほとんどの種がミカン科を奇主植物としていて、キアゲハのセリ科は特異ですが、進化的にミカン科奇主の先祖から派生したとしたならば、先祖返り的にそのような事象はあり得るのかなとお答えしました。少年の質問でしたが、のちに調べてみたところ、実際にそのような事例は多いようでした。その次の質問が驚きでした。ご婦人から「昆虫の森の温室内のクスノキでシロオビアゲハの幼虫が付いていて、しかも食べ痕があるんです」ぱっと思い浮かんだのは、通路を挟んで本来の食草のシークワーサーがありますから、偶発的に葉の上にいたのではないかと。ただ、「食べ痕」という点は気になり、「興味深いので後で確認します」とお答えしつつ、アゲハチョウ科でもアオスジアゲハがクスノキを奇主とすることは誰しも知るところですが、さすがにGraphium属ですから、そのようなイレギュラーは考えにくいと思いました。チョウ目と食性進化はとんでもないスケールの謎に満ちた世界でありながら、アゲハチョウ科は系統樹の末端にあり、グループとしての進化と奇主植物の変化を捉えるうえで、取り組みやすい研究テーマのようです。多くの研究者の方々の興味深い情報があふれていますので以下のサイトをご参考にしてください。

https://www.brh.co.jp/research/lab01

https://www.brh.co.jp/upload/labo_activity/lab01/attach/201601.pdf

https://ja.insect-plant.org/insectindb/insect/index?lang=ja&insectName=%E3%83%8A%E3%83%9F%E3%82%A2%E3%82%B2%E3%83%8F

母虫は子孫を残すために、我が子が食べる植物を選びます。この時に前脚先端の跗節の受容体で奇主植物に含まれる化合物を判断して産卵に至ります。昆虫も個性があり、時に誤った植物に産卵することもあります。本来の奇主植物ではない葉の上で生まれた幼虫はどうするでしょう。孵化した幼虫の移動力は限られます。食べるべき植物かどうかを判断する器官が口もとの小顋肢にある味覚神経で、違和感を覚えながらも葉にかじりつくか、まったく口にせず飢えて死んでいくかの2択に迫られます。どちらを選ぶかも変異の中の個性が決定するのでしょう。何とか葉にかじりついたとして、さらにもう一つの壁が待ち受けます。食べた葉を消化できるかどうかです。植物が昆虫に対しての防御として作り出した化学物質を分解する消化酵素が必要です。植物がもつ様々な化学物質(忌避物質)への適応が、食草利用の組み合わせの多様化へつながり、さらに、こんな母虫のイレギュラーと試練を乗り越えた幼虫の子孫が、種分化につながっていったと私は理解しているのですが、学者の方が読んで間違っていたら教えてください。前置きが長くなりましたが、イモムシ好きとして、この分野にロマンを感じます。

さて、本題です。温室に向かいクスノキを確認しました。数年前に植栽し、低木に仕立てているので目線に葉がたくさんあります。とはいってもこの木で1匹を探すのは大変だなーと思いつつ葉の表を見ていきます。

ふれあい温室内のクスノキ

「いました!」割とすぐに4齢幼虫が見つかりました。

クスノキ葉上のシロオビアゲハ4齢幼虫

確かに食痕も付いています。1匹だけなのかどうか、もう少し見ていくと・・・「ここにも!ここにも!」さらに驚いたことにたくさんいました!

クスノキ葉上のシロオビアゲハ2齢幼虫

とりあえず、目に付く幼虫を回収してみます。2齢~4齢期が次々と見つかり、十数個体は回収しました。

回収した幼虫

この現象をどうとらえるか。まず、成長差はありますから、数日間の間に母虫は複数回産卵したことがうかがえます。産卵行動としてイレギュラーですが、ここまでたくさん産むということは、もはや確信的異常な産卵行動です。しかも、孵化した幼虫がそれなりに育っているという現段階となります。

温室内には本来奇主植物のシークワーサーがあり、あたりまえのように産卵が行われます。もう一つ、ミカン科植物のゲッキツも数本ありますが、そこへの産卵や幼虫が育っていたことはかつて確認されていません。

ちなみに、Papilio属の中には海外でクスノキを奇主植物とするPapilio troilusがいます。

幼虫の成長を見守りつつ、経過を観察してみます。

この情報をくださったお客様には心より感謝申し上げます。