佐渡島遠征
5月28日から31日まで新潟県の佐渡島に行ってきました。よく佐渡に行くと言うと「目的は?」と聞かれますが、私にとって佐渡の魅力とは50年くらい遡ったかのような里の風景と、昆虫が濃いということに尽きます。2019年7月に小学館の図鑑NEO「イモムシ・ケムシ」取材で初めて訪れた場所ですが、その時の体験が忘れられず再び計画を立てたわけです。今回は完全なプライベート旅行で、蛾類が大好きな人たちにお声がけをしての旅となりました。初日から大荒れの天気で、カッパ着用の散策から始まり、ドンデン山に向かう途中で林縁を見始めますが「なんか虫少ない・・・」と感じました。葉の食痕からして少なく、イメージしていた光景とは程遠い幕開けとなってしまいました。それでもみなさんの集中力は凄く、雨に打たれながら、しかも少ない成果にもめげずに初日を過ごしました。飲み会は大盛り上がりでイモムシ談義の花が咲きすぎて、周りにはややうるさかったようです。翌朝も雨で、どうしたものかと思いつつ、佐渡が初めての方も多かったので「トキセンターに行こう!」ということになりました。前回にトキセンターに行ったときは、場内のウバメガシにヤママユガの幼虫が多数付いていたのですが、今回はまったくで、やはり、発生が少ない年ということなのでしょうか。やけにドクガ幼虫だけは目立ちました。その日の夜は白雲台でライトトラップを行いましたが、雨交じりのコンディションの中、蛾の飛来は少なかったのですが、みなさん、それなりには楽しんでいただけたかと思います。11時でお開きとしましたが、ホテルにもどってしばし談義が続き、本当に熱い交流会の2日目が終わりました。
参加者の皆さんそれぞれの日程で、3日目には帰路につかれる方も多かったのですが、3日目にしてようやく晴れ間がのぞき、午前中のひと時でしたが、白雲台周辺の散策を行いました。歩き出してすぐにエゾアカヤマアリの巣を発見し、私はくぎ付けとなってお尻が貼りついてしまいました。蟻酸を肉眼でわかるくらい飛ばすシーンが見られたのですが、撮影はできませんでした。巣の近くにイタドリの群落があり、花外蜜線に多数のワーカーが集まっていたのですが、巣の周囲にいる個体よりもどれも小柄で、クロオオアリのようにはっきりした兵アリタイプはいませんが、ワーカーには体格差のタイプと仕事の分担はあるのかなと感じました。撮影に夢中になっていて、気が付けば仲間たちはずいぶん先のほうへと進んでいましたが、忘れ物を取りに引き返してきたOさんに「まだいたんですねー」と言われるほど、なかなか面白いエゾアカヤマアリとの遭遇でした。
お昼近くとなり、みなさんそれなりの収穫に満足しつつ、帰路につかれる方々を見送ると、残り組で午後の散策場所を相談しました。私の希望もあって、南西の素浜海岸に向かうことにしました。そこは、以前にも訪れた場所でオオウスバカゲロウの幼虫が多数生息していた場所です。
かなり広い海岸で、以前に訪れた場所の記憶が怪しく迷いながらも到着しました。砂浜を見渡せばおびただしいゴミです。本当にプラスチックごみの問題は深刻です。以前に訪れたのは7月で、海のシーズンに合わせて清掃された後だったようで、だいぶ印象が違う光景に戸惑いつつ、同行したSさんは「掃除をしないほうが虫がいる」と。確かに、物陰が居場所となって、ごみの下にはオオハサミムシがたくさん生息していました。
みなさんそれぞれ、思い思いの虫さがしが始まりましたが、私はもっぱらオオウスバカゲロウの幼虫を探し始めます。オオウスバカゲロウはすり鉢型の巣を作りませんから、獲物となったダンゴムシなどの死骸をたよりにその周辺を掘るという探し方です。以前は、まったく労せずに多数の個体が採集できましたが、探し始めてしばらくしても、まったく収穫なしでした。そんな時、砂地に妙な孔が見つかります。直径が8ミリほどでワスレナグモの巣を思わせるような孔です。
孔をのぞき込むと、孔の中からもこちらを見ていて目が合いました。イソコモリグモです!
以前に企画展「クモの世界へようこそ」の製作を担当し、その時のネタとして海浜性の希少種として取り上げたことが頭の引き出しに残っていました。その時は「こんなクモがいるんだ、見てみたいなー」と思っていたところで、予期せずにここで出会えるとは・・・
さて、目的のオオウスバカゲロウ幼虫はその後も見つからずでしたが、「もしかして・・・」と思わせる痕跡を見つけました。砂地に指でなぞったような、アリジゴクが徘徊したときに残す独特な痕跡です。
これはと思い、痕跡周辺を砂を丁寧に掬い取ると「見つけました!」久しぶりに再会するオオウスバカゲロウ幼虫です。なにしろ大きい!そして、動きが面白い!以前よりも数が少ないのは環境の悪化と思いたくはありませんが、海浜や河原も含めて、砂地に生息する生物にとっての生息環境は、ますます厳しいものになりつつあります。
3日目の散策が終了し、残り組での最後の夜も盛り上がりました。自然大好き、生物大好き人間が集まって過ごす楽しい時間は、アッという間に過ぎてしまいました。企画展の準備中という仕事が詰まっていた中での強引な計画でしたが、本当に計画してよかったと思いました。4日目は帰路につくだけで、朝から港に向かって車を走らせますが、皮肉にも4日中最高の天気でした。私にとって佐渡の魅力の一番は「自然」ではありますが、街並みや家のつくりなどを車窓から眺めながら、ここに来なければ味わえない風土を新たに感じつつ、またいつか訪れることを楽しみに島をあとにしました。