虫の眼レンズ検証

虫の眼レンズは、昆虫写真界において栗林慧さんが手がけた画期的なレンズであり、虫の目線で見たような独特な画角は、映像表現の幅を大きく広げました。栗林さんはこのレンズを自作したことにも驚きますが、そのほかにも機械的原理の工夫の中で、数々の作品を生み出しました。栗林さんは、まさに昆虫写真界のレジェンドです。さて、この個性的な画角は医療用の内視鏡が原点と聞きますが、その後、ドアスコープの原理を利用して、既製品レンズと組み合わせての簡易的な製品も発売されました。私なりには当然興味はありましたが、クセの強い表現手法を、自分らしさとしてどう咀嚼するか自信がなく、機材としての導入を見送っていました。2022年になり、アリの生態を絵本化したいという目標ができ、ページ構成としてアリ目線での画角がほしいなと感じながら、最近の情報をネット上で調べてみると、なんとLAOWAから既製品の虫の眼レンズが販売されていることを知りました。やや高額なので躊躇しつつも導入に踏み切り、その使いまわしや画質を確認しつつ、いくつかの検証を書かせていただきます。数社のマウントで発売されていますが、私はニコンマウントを購入しました。D4とD750、D810と組み合わせながらテスト撮影をしてみましたが、オートフォーカスがなければ、自動絞りもないという完全マニュアルレンズです。私世代は様々なレンズを使ってきましたから、「まぁ特殊なレンズだし、そういうものか」で済まされますが、今どきの自動化が進んだカメラ世代は、その不便な操作性に驚くのではないでしょうか。操作性はどうであれ画質が気になりましたが、それなりのシャープ感はあると私なりには感じました。ただ、小さい昆虫をそれなりに寄って撮るとなるとF40まで絞らないと深度が得られないことになります。ということは、自動絞りではありませんから、よほど明るい光線下でなければ画面は真っ暗でピントなど合わせようもありません。そこで、絞りをいったん開けてピントを確認してから絞り込んでシャッターを切るという動作を行っていました。ちなみにこのレンズ、LED照明がレンズ先端に装着されていてUSB電源を使用して照射ができます。ピント合わせには便利ですが、シャッタースピードによっては影響を受けるので注意が必要です。私はモバイル電源に調光できる変圧器を間にかまして使用しています。

クロオオアリの巣内の様子 D810 ISO800 1/60 ストロボ
LAOWA 24mm F14 2× MACRO PROBE F40 

2023年の春以降は野外での使い勝手の検証に入りました。筒鏡が長い分、被写体を刺激せずに近づけるという利点もありますが、絞り込んでのファインダーの暗さと、やはりピントの山のつかみづらさは、手持ちで移動する被写体を追うには厳しいと感じました。比較的軽量のD750に装着し、菜の花畑で花に来る昆虫を追いかけてみましたが、ISO800でF22~40の間でシャッタースピードは1/60とした場合、被写体に寄った分ブレやすく、まともな写真は撮れませんでした。このあたりは高感度に強いカメラでISOを上げれば、ある程度解消できる問題だと思います。パソコンで画像を確認しながら感じたのは、やや引きで撮影したカットは、虫の眼レンズを使用するという利点がほぼなく、寄れる広角レンズで撮ったほうが画質もよいという点です。原理的にあたりまえと笑われてしまいそうですが、被写体に寄ってこその遠近感と、大径レンズでは得られない角度こそがレンズ効果であり、ここ一番でその効果が出せるシーンはかなり限られると感じました。なかなか手ごわいレンズです。

シマハナアブ D750 ISO800 1/60 ストロボ
LAOWA 24mm F14 2× MACRO PROBE F22

感度を上げて撮るという大前提で、Z9との組み合わせをテストしました。実際の露出がそのままファインダーに映し出されますから、ISO2000まで上げると絞り込んだ実像が明るく表示され、光学カメラではできないメリットとなります。F22~F40 SS1/125~1/250をキープしながら、状況変化に応じて絞りリングとピントリングを交互に動かし「なんか使えそう!」という感触を得ることができました。ISO2000でもノイズは全く気になりませんから、もっと感度を上げつつ、レンズ特性が生きる描写を次回はテスト撮影しようと思います。

カラスノエンドウの花外蜜線から蜜を吸うクロオオアリ Z9 ISO2000 1/125 トリミング
LAOWA 24mm F14 2× MACRO PROBE F22
NIKON Z9  LAOWA 24mm F14 2× MACRO PROBE ASSY