ケラの羽化
ケラは思い入れの深い昆虫の一つです。私が3歳の時、横浜から静岡県三島市文京町1丁目の国鉄アパートに引っ越したのですが、5階だった住まいで、新聞は1階の集合ポストに投函され、それを取りに行くのが私の日課でした。1階に下っていく過程で、夜間に灯りに集まった昆虫が壁に付いていたりして、それを期待しての楽しみもありました。そして1階の集合ポストの先に半地下みたいな空間があり、排水溝の周りにたまったゴミをどけると決まってケラがいました。夜間の灯りに集まって行き場を失ったケラが隠れていたのです。手のひらに包んだケラの、指の間に潜り込もうとする力は強く、少し痛みを感じるほどでした。そんな記憶は、私の昆虫とのかかわりの原点だったような気がします。何か愛着を沸かせる風貌もあってか、ケラはお気に入りの昆虫のひとつでずいぶん飼育もしてきました。かつてかかわった飼育の書籍では羽化直後の写真も掲載されていますが、羽化の瞬間は見たことがありませんでした。そこで、飼育中の幼虫の中に羽化が近い個体がいたので、撮影に挑戦してみることにしました。いろいろとセットを考案しましたが、ミズゴケを入れた透明プラスチックの容器越しに、飼育下という前提で撮れればと思いながらの、結露による曇りがどうしても解消できず、「ダメだ!こりゃ」とあきらめてタッパーに移動しました。
幼虫はとても神経質で、物陰でなければ落ち着かない様子だったので、やはり撮影は難しいと半ばあきらめていました。夕飯と晩酌で一息ついたあとタッパーをのぞき込むと・・・なんと羽化の真っ最中!本当にとりあえずですが、白い紙の上で撮影しました。